ページの本文へ

Hitachi

福島復興支援から、全国へ。過酷な作業環境下で働く人々のために、
防護服内に着用する冷却ベストを開発。

作業中の熱中症予防に着目

東日本大震災以降、日立パワーソリューションズは、さまざまな形で福島復興支援に取り組んでいる。その中で、福島第一原子力発電所内のがれき撤去作業を推進しているのが、豊田の所属する保全設計グループだ。「がれき撤去作業は、遠隔で操作できる重機を用いることで計画されていますが、重機の故障時や重機で対応できない所には、作業員が現場に行くことが想定されます。そこで、作業者を高線量の放射線から守りつつ、作業負荷軽減も目的とした装備品の開発に着手しました。ところが、これらの目的を達成する装備品は重くなってしまい、これを装着して炎天下で作業する作業員は、熱中症の危険にさらされてしまいます。冷却ベストは、この装備品の付属品として開発を開始したものです」
開発にあたっては、市販のタンク型冷却ベスト[帝国繊維(株)と公益財団法人日本ユニフォームセンター、JAXA(宇宙航空研究開発機構)とのコラボレーション商品]を基本モデルとした。販売元の協力を得て、2014年10月、顧客ニーズを調査するためのデモンストレーションを実施。その後、福島第一原子力発電所の復興事業に取り組んでいる東京パワーテクノロジー(株)から依頼を受け、福島第一原子力発電所内の作業者向け冷却ベストの製品化がスタートした。「開発委託元である東京パワーテクノロジー(株)、製造元である帝国繊維(株)、冷却ベストの基本技術と特許を持つJAXAと公益財団法人日本ユニフォームセンターの協力を得て開発に当たり、2017年に製品化が実現しました。帝国繊維(株)が製造し、当社が販売しています」

福島第一原子力発電所内の作業用にアレンジ

冷却ベストは、チューブをベスト内に編み込み、冷やした水をポンプでチューブに循環させる仕組み。「一番難しかったのは、重さと大きさ、冷却時間とのバランスでした。年に2、3着を試作し、試行錯誤を重ねてようやく完成しました」と豊田は開発過程を振り返る。管理対象区域内での使用には条件が伴う。まず2時間と決められた作業時間内は、冷却を保たなければいけない。次に、水漏れ厳禁のため氷水は使えない。作業性も考慮する必要がある。これらをすべて満たせるよう、水の冷却には保冷剤を採用し、水を循環させるためのポンプと合わせて重さを約3キログラムに抑えたリュック型の冷却ベストが完成した。現地作業員の声にきめ細かく応えた自信作と話す豊田から、達成感が伝わってくる。「作業中はトイレに行けないため、腹部を冷やさないようチューブの編み込み位置を調整したり、IDカードと線量計を入れるためのポケットを取り付けたりと、作業員の意見を取り入れていきました」。2017年に384着を納品。2018年は、さらに利便性を高めた改良品の納入も決定。福島第一原子力発電所では、今でも約5,000人の作業員が尽力している。一人でも多くの人に使っていただくために、また使い続けていただくために、今後も改良に力を入れていく。

原子力本部
原子力機器設計部
保全設計グループ

がんばる人々を支えたい

2017年秋、日立グループ恒例のHitachi Social Innovation Forum 2017 TOKYOにリュック型冷却ベストを出品し、多くの企業にアピールした。「物流や食品関係の企業から、利用したいとお声をかけていただいています。ほかにも、鉄鋼、農業、アミューズメント施設、自動車レースでの使用など、アレンジ次第で着用シーンはどんどん広げられます。熱中症対策が必要な作業環境でがんばっている人々に提案していきたいですね」と意気込みをみせる。もともと原子力機器の設計支援に携わっていた豊田。福島復興支援の中で冷却ベストを製品化し、作業する人々を支えながら、新たなビジネスチャンスも求めて営業活動に励んでいる。「お客さまの声を直接聞いて製品に反映させていくのは初めてで、仕事に手応えを感じています」。豊田の言葉には働く人々、そして地域への熱い思いがこもっていた。