当社の風力発電事業には20年を超える歴史があります。この歩みの中で、災害などによる停電を想定して開発したのが、防災対応型風力発電システムです。きっかけは2011年3月の東日本大震災でした。秋田市では震災による停電の影響が浄水場にも及び、断水のおそれがありました。浄水場では送水・取水ポンプを稼働する際に電力を使いますが、震災発生時は系統からの電力が停止し、地域住民の飲料水の供給ができなくなる寸前のところだったといいます。
これを機に、秋田市から「風力発電を防災利用できないだろうか」と相談を受けました。当社でも、風力発電の新たな付帯機能として蓄電池を備えたシステムの可能性を模索していたこともあり、本格的に防災対応型風力発電システムの開発に着手することになりました。東日本大震災から3年後の2014年のことでした。
秋田市豊岩地区の国見山エリアに建設・納入した防災対応型風力発電システムは、総出力7,480kWの4基の風車と、蓄電設備で構成しています。万一の停電時には蓄電池の力で浄水場のポンプを動かし、住民の皆さまに水を供給することができます。納入後、幸いにも災害は起きていませんが、いつ何があっても確実に稼働できるように、保守員と連携して万全を期しています。
当社の風力発電システムの特長は、設備だけを単体で納めるのではなく、さまざまな設備と組み合わせることで、新たな価値を生み出すところだと自負しています。国見山エリアに設置した風力発電システムでは、蓄電池と組み合わせることで「防災対応」という価値を生み出しました。本システムは浄水場に限らず、地元自治体の防災施設や病院、公民館などに電力を供給することも可能です。また当社では、地域出身の保守員の育成にも力を注いでいますので、エネルギーの地産地消や雇用機会の創出による人口流出の防止など、価値の提供範囲はさらに広がると考えています。
近年、台風や豪雨、地震など、私たちの想定を超えるような自然災害が日本各地を襲っています。こうした状況下で、地域社会や企業が受ける影響を少しでも軽減し、強く柔軟に災害を乗り越える「レジリエンス」の重要性が高まっています。地域社会の暮らしや企業の事業活動の継続には、災害発生時でも電力インフラを維持できるよう備えておくことが、今後ますます重要になります。この役割の一翼を担うのが、当社の防災対応型風力発電システムであると考えています。
再エネソリューション本部
風力プロジェクト部 プロジェクト第3グループ
長合 憲人
再生可能エネルギーを活用する風力発電システムには、防災対応のほかにもう一つ、大きな使命があります。それは、脱炭素社会の実現に貢献することです。日本政府は、2050年までに脱炭素社会の実現をめざすことを指針として打ち出しました。日立グループでも2030年度までに全事業所の脱炭素化を実現すると宣言しています。温室効果ガスを排出せず、風を受けて電気をつくる風力発電システムは、これらの取り組みにおいて重要な役割を果たすと位置づけられています。
当社には、風力以外にもさまざまな再生可能エネルギーを活用してきた実績と知見といった強みがあります。この強みとそれぞれのシステムが持つメリットを組み合わせることで、さらに大きな可能性が生まれるのではないかと考えています。人々の暮らしや社会がより良い未来へ向かうための追い風となるような技術とソリューションを、これからも生み出していきたいです。