2018年3月、福島県南相馬市の沿岸部で、発電容量9.4MWの「万葉の里風力発電所」が稼働を開始しました。福島県は再生可能エネルギー推進ビジョンを掲げ、2040年ごろを目処に、県内のエネルギー需要量100%以上に相当する量のエネルギーを、再生可能エネルギーで生み出すことをめざしています。また南相馬市も同様のビジョンを掲げ、2030年度を目標に市内の消費電力に匹敵する電力を再生可能エネルギーで生み出すとしています。これらの目標達成の一環として、東日本大震災で津波の被害を受けたこの地域に、本発電所が建設されることになったのです。
この事業は、地元の企業と日立グループで共同出資した株式会社南相馬サステナジーが主体となって行っているもので、当社は開発候補地の選定や風況調査から発電所の設計、建設工事、着工後の運転支援や保守サービスまで一貫して請け負っています。ここでの私の役割は、工事のプロジェクトマネージャー(以下、プロマネ)でした。プロマネとして建設に関わるのは初めての経験でしたが、プロジェクトがスムーズに進行するよう、社内外を問わず、多くの関係者と会話を交わしました。当社には、ドイツ連邦共和国(以下、ドイツ)のENERCON社製風車の導入実績が多数ありますが、今回導入する同社の風車E-92型は、国内初導入でした。私自身のプロマネ初経験に加え、初導入の型式ということもあり、大変さはありましたが、得られた経験は貴重なものとなりました。
エネルギーソリューション事業統括本部
再エネソリューション本部
風力プロジェクト部
大藤 琢矢
風車の羽根はドイツから、タワーは大韓民国から海上輸送で運んできました。タワーはこれまでとは異なる製造工場だったため、勝手が違う部分もありましたが、風車建設時に最も困難だったのは、復興に向けて県や市が行う道路の新設や防災林の設置工事などが一斉に動いている時期に重なったことによる、工事関係者との調整業務でした。
また、電力の使用者となる住民の声も気になりました。最初は反対の声も挙がったと聞いています。環境影響調査の結果は、現在の環境と対比し、大きな差異はないというものでしたが、羽根の先まで130メートルもある風車が4基も建つことに、騒音などを心配されていた方もいたようです。しかし、着工後に参加させていただいた住民総会で、「風車の音は気にならない」とか、「今日も風車が回っているかな」と毎日楽しみにされているという話が聞けて、住民の皆さんが好意的に受け止めていてくれることが分かり、うれしく安堵しました。
4基の風車は復興のシンボルとして、鎮魂と再生の願いを光に込めるイベント「南相馬光のモニュメント2019」の舞台としても使われました。持続可能な社会を実現するエネルギーインフラとして、さらには地元に愛される復興のシンボルとして、これからも福島の皆さまの未来づくりに貢献していけるよう、建設後も住民の皆さん、行政の皆さんとの関係を維持していきたいと思います。
万葉の里風力発電所の稼働で、一般家庭約4,500世帯分の年間電力使用量に相当する発電量の確保と、年間約1万トンのCO2排出抑制が実現できています。発電した電力は、20年間にわたって全量を電力会社に売電するほか、事業会社は売電収益の一部を使って、植樹などの地域貢献活動にも取り組む予定です。
現在は、南相馬市と飯舘村の境に風車14基を建てるという、さらに大規模な50MW級の風力発電所の建設を計画中です。私もこの発電所の建設に関わっています。今回のプロマネ経験を生かし、福島の再生可能エネルギー100%の実現をめざして、より一層励んでいきます。